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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)67号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。

1 本願考案について

成立に争いのない甲第四号証(昭和五八年四月八日付手続補正書)及び甲第五号証(昭和五八年一〇月一一日付手続補正書)によれば、(1)本願考案は、閉塞状態時における外表面のほぼ全域を金属薄板により被覆した合成樹脂製のコンパクト容器に関するものであること、(2)従来、「所望の板形状に成形された合成樹脂製の容体1´´と蓋体2´´とを、容体1´´に一体設された蝶番片3と、蓋体2´´に一体設された蝶番片4とで蝶番軸5により蝶番結合して書籍状に開閉可能とし、この容体1´´と蓋体2´´との外表面に、この外表面全域を覆う金属薄板製の装飾板15a、15bを組付け固定したコンパクト容器」(別紙(一)の第1図参照。以下、本願考案の認定に使用する符号及び図の番号は、右別紙(一)のそれによる。なお、右従来のコンパクト容器が、本件審決認定の周知のものの一つに属することは原告の自認するところである。)が知られていたこと、(3)右従来のコンパクト容器における装飾板15a、15bは、単なる装飾だけのものであるため、その厚さは極めて薄く、ほとんど膜状となつていたこと、それゆえ、コンパクト容器としての機械的強度は、もつぱら合成樹脂製の容体1´´及び蓋体2´´自体の機械的強度に頼る他なかつたこと、(4)ところが、容体1´´及び蓋体2´´には、化粧料収納ドラムの嵌入組付け用の凹部8及び鏡組付け用の凹部9を形成しなければならず、これらの凹部8及び9の成形にもかかわらず充分な機械的強度を得るために、容体1´´及び蓋体2´´の肉厚は充分に大きな値にする必要があつたこと、このため一個のコンパクト容器を成形するのに消費される合成樹脂材料の量は大きな値となつていたこと、(5)本願考案は、右従来例における欠点を解消することを目的としているものであること、(6)しかして本願考案は、合成樹脂製の容体及び蓋体を骨組体構造に成形し、この骨組構造体に、ある程度の剛性を発揮できる肉厚に成形された金属薄板製の装飾用外殻体を組付けて構成したものであること、(7)即ち、容体側のくり抜き枠体1及び蓋体側のくり抜き枠体2は、従来例の容体1´´及び蓋体2´´と同一板形状となつた容体側容器素体1´及び蓋体側の容器素体2´からくり抜き成形されるもので、骨組構造体として作用する程度の機械的な強度を持つように成形されていること、くり抜き枠体1及び2に組付け固定される金属薄板製の外殻体14a、14bは、金属感により商品としてのコンパクト容器を装飾するとともに、それ自体くり抜き枠体1及び2に強固に組合さつて容器としてのコンパクトを完成させるものであつて、それゆえくり抜き枠体1及び2の機械的強度の不足を補うことのできる程度の機械的強度を発揮できる肉厚に成形されていること、(8)例えば、第2図及び第4図に示した実施例の如く、凹部8及び9の底壁全体を切除して構成されるくり抜き枠体1及び2に組付け固定されるような場合には、この空間部分に対向する外殻体14a、14bの中央部分がみだりにへこんだりしない程度の剛性を得ることができる肉厚が必要となるので、第2図及び第4図に示した実施例における外殻体14a、14bの肉厚は比較的大きな値となること、(9)しかしながら、第3図及び第5図に示した実施例の如く、くり抜き枠体1及び2に補強枠片12及び13を一体に成形した場合には、外殻体14a、14bに要求される剛性の程度は、第2図及び第4図に示した実施例の場合に比べて、はるかに小さくて良いことになるので、その分だけ外殻体14a、14bの肉厚を薄いものとすることができること、(10)また、補強枠片12、13を設けるのとは別に、くり抜き枠体1及び2に組付けられる化粧料収納ドラム及び鏡を、それらが直接くり抜き枠体1及び2に強固に組付けられるとともに、それぞれの底面が外殻体14a、14bに当接する構成とした場合には、この化粧料ドラム及び鏡自体が、外殻体14a、14bの中央部のみだりなへこみを阻止すべく作用するので、この場合も、外殻体14a、14bの肉厚を薄くすることができること、(11)本願考案は、前記のような構成を採用したことにより、消費される合成樹脂材料の量を大幅に減少することができるとともに、このように合成樹脂材料の量を大幅に減少させたにもかかわらず、充分に高い機械的強度を持つコンパクト容器を得ることができる(即ち、原告主張の(1)の効果。右原告主張の(1)の効果が本願考案の奏する効果であることは、当事者間に争いがない。)ことが、いずれも認められる。

右事実によれば、本願考案のくり抜き枠体は、それ自体ではコンパクト容器としての機械的強度が不足すること、そのため外殻体により右くり抜き枠体の機械的強度の不足を補う構成であること及び右にいうコンパクト容器としての機械的強度とは、外殻体の中央部分がみだりにへこんだりしない程度の機械的強度をいうものと認められる。

原告は、本願考案についての前記「機械的強度」とは、「くり抜き枠体自体で必要部品を強固に保持することができる程度及び自己形状を一定に維持する程度の強度」をいう旨主張しているが、そのように解すべき証拠はなく、却つて右に認定したところからすれば、原告の右主張は肯認しがたいところである。

2 引用考案について

成立に争いのない甲第二号証(昭和五〇年実用新案登録出願公告第三一一九一号公報)によれば、引用考案は、「ポリプロピレン等の耐反覆屈撓性樹脂を用いて蝶番を一体に有する枠体を形成し、本体と蓋とをこの枠体に装着して構成したコンパクトに関する」(甲第二号証一頁左欄一七行ないし二〇行)ものであること、右公報の考案の詳細な説明の欄には、本願考案の目的について「鏡、ケーキ皿等化粧用具として必要な部品を枠体に取付けて本体と蓋とをかぶせ組立てたことにより、枠体の弾力性を利用して簡便強固に組立てることができると共に、本体および蓋に任意の深さのものを用いることができるようにしたものである。」(甲第二号証一頁左欄二〇行ないし二五行)と、枠体の構成について「保持部9は鏡7より僅か小さく形成され弾力性によつて鏡7を抑え固定しており、保持部11も同様にして化粧料13を充填したケーキ皿10を抑え固定していて」(同一頁右欄一行ないし四行)と、そして、効果について「従来蓋と本体とに鏡、ケーキ皿等の取付け部を形成してこれらを取付け蓋と本体とを蝶番部にて連絡したものに比べて、所定寸法の枠体を作つておくことによりこれに装着する蓋と本体とは材質および深さ等の寸法が異る任意のものを用いることができ」(同一頁右欄三五行ないし二頁左欄二行)、「合成樹脂の弾力性を利用して鏡、ケーキ皿等を容易に固定できるものであり、更に蓋、本体に任意の材料を用い得るため趣味感にすぐれたコンパクトを提供するものである。」(同二頁左欄六行ないし同頁右欄一行)とそれぞれ記載されていることが認められる。右事実によれば、引用考案は、鏡、ケーキ皿等の必要部品を枠体(本願考案ではくり抜き枠体に相当)により強固に組付け保持するものであり、本体及び蓋(本願考案では外殻体に相当)は、鏡、ケーキ皿等の必要部品の組付け保持には作用しない構成であることが認められる。

そこで原告は、引用考案の本体及び蓋が右必要部品の組付け保持には作用しない構成であることをもつて、本体及び蓋が枠体の機械的強度の補強には何ら作用しないとして、これを理由に、「引用考案の本体及び蓋は当然枠体を補強する機能を有するものと認められるから、本願考案の外殻体と同じ機能を有しているものと認められる」との本件審決の認定判断が誤りである旨、したがつて、前記の相違点における本願考案の構成は、当業技術者が極めて容易に想到できた程度のものというほかないとした本件審決の認定判断が誤りである旨主張するので検討するに、前掲甲第二号証によれば、引用考案の前記公報の考案の詳細な説明の欄に、「蓋1と本体3とは鏡7、ケーキ皿10を組立ての際に圧縮破壊しない程度の硬さを有することが必要である」(甲第二号証一頁右欄二六行ないし二八行)と記載されていることが認められ、右事実並びに同公報の図面の第3図及び第4図に表れた本体及び蓋とケーキ皿及び鏡との位置関係及び前認定の事実から認められる引用考案の本体及び蓋がコンパクト容器としての本体及び蓋であるという事実及び引用考案の本体及び蓋がある程度以上の肉厚を有するものであり、それ自身で保形性を有するものであるという当事者間に争いがない事実を総合すると、引用考案の本体及び蓋は、枠体の、前示の本願考案にいうところのコンパクト容器としての機械的強度の不足を補う機能を有していると認めることができ、したがつて引用考案の本体及び蓋は、右の意味で本願考案の外殻体と同じ機能を有しているということができる。引用考案の前記公報の考案の詳細な説明の欄に「装着する蓋と本体とは材料および深さ等の寸法が異なる任意のものを用いることができ」、「蓋、本体に任意の材料を用い得るために趣味感にすぐれたコンパクトを提供する」との記載があることは前叙のとおりであるが、右の記載は前記認定を左右するものではない。

そうすると、本願考案のくり抜き枠体のコンパクト容器としての機械的強度の不足を外殻体で補うという、周知のものと相違する構成を想到することは、引用考案により当業技術者に極めて容易にできた程度のものということができることは叙上説示したところから明らかであるから、これと同旨の本件審決の認定判断に誤りはなく、原告の主張は採用できない。

3 効果について

(一) 原告主張の(1)の効果について

原告主張の(1)の効果が、本願考案の奏する効果であることが当事者間に争いがないことは、前叙のとおりであり、引用考案でも周知のコンパクト容器に比し結果的に使用合成樹脂材料の量を節約できることになることは、原告の自認するところであるところ、本願考案のくり抜き枠体のコンパクト容器としての機械的強度の不足を外殻体で補うという構成を想到することが、引用考案により当業技術者が極めて容易にできたことは前叙のとおりであるから、右の(1)の効果は、引用考案から当業技術者が極めて容易に予測できた程度のものと認められ、同旨の本件審決の認定判断に誤りはなく、右の(1)の効果が引用考案及び周知のものからは予測できない特段のものである旨の原告の主張は採用できない。

(二) 原告主張の(2)の効果について

原告は、機械的に充分な強度を保持したまま充分に薄型に成形することができることを本願考案の奏する特段の効果である旨主張するが、右効果なるものは、くり抜き枠体の構成を薄型に限定したときにはじめて生じる効果であることが自明できるところ、前記当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、本願考案にはその限定がないことが認められるから、右効果なるものは本願考案の奏する効果とはいえない。したがつて、原告の右主張は採用できない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。

「所望板形状の容体側および蓋体側の一対の容器素体の少なくとも一方の容器素体から、蝶番片を含む周端縁部分を残して他部分を切除した形状に成形された合成樹脂製のくり抜き枠体を、他方の容器素体もしくはくり抜き枠体に前記蝶番片を利用して蝶番結合し、前記くり抜き枠体に、一方端面を閉塞した短筒体形状をした所望肉厚の金属薄板製の外殻体を嵌合により外装組付けして成るコンパクト容器」(別紙(一)の第2図ないし第5図参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙(一)

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別紙(二)

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